― 通信インフラ支配リスクとソフトバンク・投資構造をめぐる考察 ―
1. デジタル・シルクロードとは
中国が推進する「デジタル・シルクロード(DSR)」は、一帯一路構想のデジタル版とされ、光ファイバー網、海底ケーブル、スマートシティ、クラウド、AI、監視技術など幅広い分野を対象に海外展開する戦略だ。通信やクラウドを「インフラ」として提供することで、他国における技術的・経済的な影響力を高める狙いがあると分析されている【CFR】【CSIS】。
2. 東アジア・日本近傍の事例
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ADC海底ケーブル(Asia-Pacific Digital Cable)
中国電信や中国聯通、日本のソフトバンク、シンガポール通信大手らが参加するプロジェクト。日本を含むアジア太平洋を結ぶ約1万km級の大規模ケーブル。 -
APGケーブル(Asia Pacific Gateway)
中国・香港・日本・韓国・台湾・東南アジアを結ぶ通信基盤。複数国の通信事業者が参加。 -
Trans-Pacific Express (TPE)
中国・台湾・韓国・日本・米国を結ぶ光ファイバーケーブル。多国間投資によって運営される。
これらのプロジェクトは国際通信の“幹線道路”にあたるため、誰が運営権限や保守権を握るかでリスク水準が変わる。特に香港や上海の拠点は法制度や政治環境の影響を受けやすく、リスク評価が必要とされる。
3. 米国での懸念 ― FutureweiとNVIDIAの共存
2025年9月、米下院の中国共産党特別委員会は、Huaweiの関連会社とされるFutureweiが、長年にわたりNVIDIAのカリフォルニア・キャンパスで建物を共有していた件について調査を開始した。議会は「米国の先端半導体やAI技術に異例のアクセスを得ていた可能性」を懸念し、Futureweiに対して詳細な組織図や契約書の提出を求めている【Select Committee on the CCP】。
4. 日本が取るべき対応
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通信経路を多様化し、香港・中国本土ルートへの依存を減らす。
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上陸局・保守権限を契約で縛り、遠隔アクセスやログ管理を厳格化。
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暗号化を徹底し、通信内容だけでなくメタデータも保護する。
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国際標準化の場での発言力を高め、将来の仕様に対する主導権を確保する。
5. ソフトバンク関連の資本構造
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Huawei株式:Huaweiは従業員持株制で、外部株主は存在しない。ソフトバンクが株を持つ事実はない。
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Vision Fundと中東資金:サウジPIFが約450億ドル(約45%)、UAEムバダラが約150億ドル(約15%)を拠出し、湾岸資金が大きな比率を占める。
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NVIDIA株式:2017年に約5%保有していたが2019年に売却。その後2024年以降に再び約30億ドル規模を取得したと報じられているが、NVIDIA全体から見れば0.1〜0.2%台程度の小口。
6. 総合的な影響分析
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ソフトバンクとHuawei間には資本関係は存在しないため、「株主ルート」での影響は考えにくい。
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ただし通信機器やケーブルプロジェクトでの協業は別次元のリスクであり、技術依存や規格支配には注意が必要。
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Vision Fundを通じた中東資金は世界のハイテク投資を左右しているが、直接Huaweiに資本が流れているわけではない。
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NVIDIA株保有は経営に影響を及ぼすほどではなく、むしろ論点は「共存施設での技術アクセス」や「インフラの管理構造」にある。
まとめ
デジタル・シルクロードは通信・クラウドを通じて国家間の依存関係を生み出し、影響力を高める戦略だ。日本としては、物理ケーブルやクラウドサービスの多様化、標準化活動への積極参加、契約・法制度の整備が喫緊の課題となる。
資本関係では、ソフトバンクがHuawei株を持っていない点や、NVIDIA株の比率が低い点を踏まえると、リスクの中心は資本ではなくインフラと運用権限にあると言える。